2010年7月15日木曜日

JMMA関東支部・エデュケーター研究会(第1回) 議事録

2010年7月8日@文化庁

JMMA関東支部・エデュケーター研究会(第1回)
議事録


 各博物館における教育普及担当専門職員=エデュケーターの配置促進や社会的地位の向上に資する観点から、日本ミュージアム・マネージメント学会関東支部では「エデュケーター研究会」を発足し、この度第一回研究会が行われた。
 最初は10名程度の小さな会になるだろうと主催者は予想していたようが、50名以上の参加者が集まり、エデュケーターへの関心の高さが伺えた。

 冒頭は、大阪市立自然史博物館、琵琶湖博物館を経て現在三重県新博物館に従事される布谷知夫さんから、現場での豊富な経験を通して培った教育理念を元に、ミュージアムエデュケーターを博物館にどう位置づけるかが語られた。
 まず日本の博物館の特徴として、博物館法第2条にある3つの定義、収集・保管/展示/研究、これらすべての業務を学芸員が横断的に遂行していることを取り上げ、それらの業務が完全分業化されている欧米と比較してプラス面とマイナス面が挙げられた。プラス面としては、業務を横断することによって利用者によきサービスが提供できる、例えば博物館が持つ資料をよく知る学芸員が直接来館者に提供できること、マイナス面としては、それらの業務に対し慢性的に予算・人員的に不足していることなどが述べられた。
 また、博物館の社会的な役割が時代の変化と共に変わってきたことで、その定義にも変化が起こっていることも挙げられた。例えば、かつては資料収集、活用の機関として機能していた博物館は、地域の資料を収集、研究する地域の情報センターとなり、現在では地域の人がその地域について学ぶ場となり、地域を考える力へとなっているという。その結果来館者も多様化し、そうしたさまざまな利用者に対応すべく、いま博物館では3つの定義に加え、教育もその定義に位置付けるべきという意見が述べられた。

 次に、博物館で行う教育活動の特徴として、かつて布谷さんの勤務先である琵琶湖博物館での経験談から、博物館教育とは双方向的、能動的な教育活動の場であることが説明された。博物館の展示室は、かつては一方的な情報提供の場だったが、“何かが起こる”ことを誘発する双方向・能動的な学習の場となり、やがて一人一人が展示室から自分自身で学び、自らの“もの”とする機能を果たすようになったという。例えば、地域のための博物館として、展示室はその地域資源の情報発信の場としての機能を持ち、自分で調査研究することで地域を再発見し地域を変える力になった、琵琶湖博物館のミッションである「地域のためのミュージアム」が研究的教育的視点において達成されている事例が紹介された。
 そうした博物館での教育活動の経験を通し、日本が手本にしてきたアメリカ、イギリスでの博物館におけるエデュケーターの現在の状況を鑑みて、では現実的に日本ではどのようにしたら博物館での教育活動が展開できるか、布谷さん自身の意見が述べられた。それは、現状の学芸員の中から博物館教育の専門職員を育成し、その教育担当学芸員が研究系学芸員と連携体制をとり、全体の教育事業が展開されることだという。そうしたエデュケーターとキュレーターの対等的な関係により、よりよい博物館教育活動を見出せるのではと語られた。


 その後、布谷さんの講演内容に対し質疑応答がなされた。まずは、博物館にエデュケーターがなぜ必要になってきたかという質問については、博物館の来館者が多様化しさまざまな人に対応できる研究員が必要になってきたという回答があった。他には、どのようにしたら博物館教育の専門学芸員を育成できるのか、といった質問に対し、現場で培ってきた、教育に関心のある学芸員や教育学を学んできた学芸員、また海外でミュージアムエデュケーションを学んできた若い学芸員が、博物館教育という研究を確立していけばよいのではという布谷さん自身の意見が述べられた。またその件については、出席者からも、教育系学芸員は専門の研究分野に弱いというキュレーターの下の立場としてではなく、利用者の目線を持つことを強みにし、来館者に近い存在として業務に従事すればよいのではという意見もあった。
 そうした中で、では博物館教育とは何かといった話題に広がっていった。博物館教育は学問的な学究と、来館者とのやりとりの中で見出す学究の2つの要素があることなどや、調査研究するキュレーターと言われる研究系学芸員と人を研究するエデュケーターである教育系学芸員が同等の立場に立ち、それぞれの博物館の理念を遂行することが理想であるが、そうした遂行は実際その館内のみで完結できるのかどうか、などさまざまな意見が交わされた。また、研究系学芸員も専門分野があり、その専門性を広げようとしているという点では教育的視点があるものの、博物館がひとりひとりの利用者にとってどういう役割を果たしていけるのか、そして教育系学芸員は利用者の立場にたって博物館活動全体を見渡していく役割があるのではないか、といった意見も述べられた。

 エデュケーターを巡る議論はまだまだ始まったばかりだが、こうして博物館内外の関係者が集まって議論を重ねたこと自体がすでに博物館教育を確立する第一歩になったのではないかと思う。よりよい博物館利用のためにも、今後この研究会の動向を追い続けていきたい。


(文責・美術出版社「美術検定」実行委員会事務局 高橋紀子)

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