2012年7月3日火曜日

JMMA関東支部・第8回エデュケーター研究会開催のお知らせ

JMMA関東支部では、各博物館におけるエデュケーター(教育普及担当専門職員)の配置の促進やその社会的地位の向上に資するため、博物館におけるエデュケーターの目指すべき姿や求められる像について、国内外における具体的な実践事例等をもとに意見交換を行う「エデュケーター研究会」を継続して開催しております。

 第8回目は、当学会理事・青山学院大学の鈴木眞理氏より、「生涯学習と博物館教育」をテーマにお話を伺います。JMMAの会員でない方や関東支部以外の方でも参加は可能ですので、博物館等で教育普及を担当されている方、やる気のある方、御興味のある方は、ふるって御参加ください。


■日 時:2012年 7月 7日(土)午後2時~5時

■場 所:青山学院大学 青山キャンパス 
14号館(総研ビル) (正門を入って、すぐ右の建物)
3階 第11会議室
(会議室使用の掲示には「社会教育計画研究会」と表示されています。)

■講 師:鈴木 眞理氏

■テーマ:(仮題)生涯学習と博物館教育
博物館教育を生涯学習・社会教育の文脈に位置づけながら、今年度から改訂された養成科目のねらいやそれに合わせて刊行されてきているテキストについての批判的検討を行う。

■内 容:
(1)挨拶:染川香澄(ハンズ・オン プランニング 代表)
(2)話題提供:鈴木 眞理・青山学院大学 教育人間科学部教育学科教授
(3)意見交換

■申込方法:①~⑤を記入の上、表題「JMMA関東支部研修会参加申し込み」として、下記申し込み先までお申し込みください。(メールによる受付のみ)①お名前 ②ご所属 ③ご連絡先(メールアドレス・電話番号)④会員・非会員

■申し込み先Eメール:JMMA事務局 kanri@jmma-net.jp
(当日参加も可能ですが、席がない可能性もありますので、事前にお申込み下さい)

2012年5月1日火曜日

JMMA関東支部・エデュケーター研究会(第7回)報告

日時:2011年10月16日(日)午後2時〜
場所:新江ノ島水族館(神奈川県藤沢市)
報告:赤坂有美

今回の研究会では、相模湾に隣接する環境を生かしてエデュテインメント型水族館として豊富なショープログラムと体験学習プログラムに実績のある新江ノ島水族館で、プログラム担当者である唐亀正直氏と原明日香氏両氏による報告がなされた。

本研究会では、各回講話前に見学会が設けられている。今回はまず水族館内展示施設を自由に見学した後、相模湾大水槽でのダイビングショー「うおゴコロ」を、次にイルカ/アシカショー「きずな/Kizuna」、そしてなぎさの体験学習館を各参加者が自由見学した。その後、堀常務から入館者数、展示理念など概要についての解説があり、ダイビングショー担当者である唐亀氏、次に体験学習チーム原氏の各講話、そして質疑応答という流れで行われた。

まず、16年にわたるイルカ飼育担当を経て、魚類チームに異動された唐亀氏(展示飼育部学芸員)により、同館リニューアル前に実施されていたショーの課題と、リニューアル後のショーの企画に際して、各魚の魅力を引き出すにあたり注意した点、そして来館者の方々に各個体を紹介する際に注意している点、そして最後にトリーターとしての発声訓練、立ち居振る舞いの訓練、基礎体力の維持向上を目的としたトレーニングを毎週行っている様子について、報告がなされた。

現在実施されている5つのショーは、イルカショー「スプラッシュ」・「ドルフェリア」、ペンギンショー「ペンギンストーリー」、魚類ショー「フィンズ」・「うおゴコロ」である。

各ショーの目的として5点が挙げられた。第一に、ショーはお客様を楽しませるものであること。第二に、ショーは展示だけでは伝わらないものを伝える手段であること。第三に、ショーはお客様とのコミュニケーション手段であること。第四に、ショーは動物たちとのコミュニケーション手段であること。第五に、ショーは動物たちのエンリッチメントであること。

第一点への問題意識は、来館者が特定のテーマがなければ各水槽を通過していくだけで終わってしまうなどのリニューアル前の課題に由来するものであり、その回答の1つが現在の魚類ショー「うおゴコロ」の実現に繋がっている。

リニューアル前のかつてのショーは、イシガキダイや電気ウナギにギミックを使用し、水槽の外から棒の先にえさをつけて演示者が操作するような1匹1芸を来館者に見学してもらうにとどまっており、各生物や個体の特徴を来館者に伝えるという観点からは不十分な内容であった。

これに対し現在のショーでは、演示者が餌付けをしながら直接魚に触り、来館者に今の様子を伝えるために水中でも会話可能なマスクを利用して相模湾大水槽に潜水している。さらに水槽の外側にもショーの担当者がおり、水槽内の演示者と役割分担をしながら解説を行っている。こうした点は第二、第三の目的を重視した工夫であリ、本ショーの特徴(見せ場)として唐亀氏は具体的に「担当者の手から各個体に直接えさを与える」、「魚の個性を伝える」、「ふれあいができているところを実際に見てもらう」、「魚と仲が良いという非日常性」を印象づけるような構成であることを挙げた。

第二、第三の目的については、たとえば「ペンギンストーリー」ではどのペンギンが餌を食べたのか来館者とともに当てるなどの場面を設け、また、「フィンズ」では担当者が水中カメラで魚のアップを撮影し、大水槽を泳ぐ魚のなかで来館者がお気に入りの一匹を選ぶなど、他のショーでも来館者に対して主体的な参加を促すような館内体験を構成に含むことを重視している。

生物に対しては、異なる担当者が試みても同じ反応を各個体ができるように、たとえば餌を与えるのとほめるタイミングを必ず同じにするなど、職員の行動、サインを統一するなど試みている。これは、第四の目的に即した取り組みでもあろう。唐亀氏は前担当のイルカとの関係では、「相棒のような接し方」を試みていたという。

ショーを通じて紹介する個体についても観察に基づいた判断を行っている。たとえばショーで餌付けを行うイシガキダイでは、他の個体が人間との接触の際、逃げるだけであるのに対し、モノドンと名付けられた個体は臆病な性質にとどまらず、好奇心旺盛であり、右・左の区別を学習できるなど、調教に適した性格が認められるため選定された。

またモノドンの餌付けに際して用いられている条件性強化子(ここではクリッカー)の使い方についても、大水槽で他の魚に餌を食べられないようなむきエビの準備方法や、演示者の行動に合わせてモノドンが行動できるようにクリッカーを鳴らすタイミングなど、ダイバーに合わせてモノドンも回転するショーの時間を短縮するための工夫として詳細な解説がなされた。イルカショー「ドルフェリア」では来館者に見えている演示者はホイッスルを使用しているようには見えなかったため、いつどのようにイルカに合図を送っているのかなど強化子の扱い方については、質疑応答でも参加者の関心を集めた。

来館者からの観点でどのように見えるか、どのような印象を抱いてもらえるかについて常に模索しているため、ショーの際は各個体に対して用いる表現にも注意を払っている。たとえばウツボへのアプローチは、ウツボを「抱く」。「もつ」という表現は選ばない。ウツボが近づいてきてくれて嬉しいという演示者の気持ちやウツボの愛らしさを演示者の動作にたくすなど、来館者に伝えられるよう特に心がけている。トレーニングに関しては、ウツボが人に抱かれるたびに逃げることを学習することがないよう、ヘビと人間とのコミュニケーションで行われているトレーニング方法を応用し、ウツボが逃げる前にリリースすることを繰り返し、人間とともにいる時間を少しずつ長くしていくなどの工夫を重ねている。

同時に、トリーター自身にはまるで人間の動作のように見える生物の行動に対しても、安易に擬人化するような表現はしないよう取り組んでいる。イルカは餌の量や与えるタイミングをコントロールできるが、大水槽は他の魚との関係性で餌を食べられるかどうかも決まる。たとえば、ミノカサゴはカワハギに餌を取られてしまうこともあるため、必ずしも安定した条件反射による行動を期待できるとは限らない。予想外に見られる行動の表現についても、擬人化しないという方針を心がけている。非日常に見られる魚に親しみを持てるようなショーを行う一方で、特に夏休みの時期などは子ども達の誤解を防ぐため、大水槽でダイバーが行っているようなアプローチはウツボやミノカサゴに対して危険であり、真似をしてはいけないと注意を呼びかけるようにもしている。

なお、同館では飼育スタッフを「えのすいトリーター」と呼んでいる。これは生物を飼育し、お客様をおもてなしするというtreatからの造語である。ショーに関わらずとも来館者の目に触れるところに立つことはショーに出演しているのと同じであることから、発声練習や基礎体力の強化プログラム、立ち居振る舞いに関するレッスンにも取り組むなど、トリーターとしての日常トレーニングが紹介され、唐亀氏の報告が終了した。

次に、なぎさの体験学習館での体験学習プログラムについて、体験学習チーム原氏(サブチームリーダー)から報告が行われた。

なぎさの体験学習館は、神奈川県から江ノ島ピーエフアイ株式会社に運営・管理を委託されている施設であり、水族館内からも入館できるようになっているが料金が必要な水族館とは異なり、フリースペースである。

情報センター、ワークショップを行うレクチャーホールのある1階「湘南発見ゾーン」と、「なぎさを歩く」、「なぎさを守る」、「なぎさを探る」をテーマとする展示のある2階「湘南体験ゾーン」で構成される。目的に応じて1階のみあるいは2階のみの利用が可能である。フロアは異なるものの水族館側のタッチングプールを訪ねた後、なぎさの体験学習館の湘南タッチプールを訪れ、飛砂体験装置や波の実験装置と合わせて当日のなぎさのコンディション(天候、波の高さ、潮位など)や、相模湾沿岸地域のイベントが紹介される「ディスカバリーボード」を見学する来館者の流れが見られ、風通しのよい動線である印象が残った。

原氏の報告に戻ろう。体験学習チームは海洋、地学、教育、デザインの各専門分野を経歴とする4名で構成され、発見する力、行動する力、創造する力という3つのキーワードのもと、一般来館者と学校団体、それぞれを対象にプログラムを開催している。

学校団体を対象としたプログラムについては、水族館見学をベースとする「“えのすい”まるわかりシリーズ」4種類、漂着物等海辺で集められるものを素材としたものづくりを中心とする「海からの贈り物シリーズ」6種類が難易度に応じて設定されている。生徒間の協力するちからを育てたい、あるいは集中力をつけたいなどそれぞれの見学目的や利用状況など学校教員からの要望に応じたプログラムも実施している。

一般来館者を対象としたものとしては、まず放課後の子ども達や先に述べたような水族館側からの来館者も当日参加できる、海岸の漂着物を素材に工作を楽しむ「いつでもワークショップ」、第二に冷却剤など、環境をテーマに自然素材を取り入れた作品を1時間ほどで製作する初級編「ちょっぴりワークショップ」、第三に体験性・学習性を深めながら参加者同士のコミュニケーションを半日〜1日をかけてはかっていく「じっくりワークショップ」、そしてある程度の日数、期間を要し、体験を通じてより専門性を深めていく「スペシャルワークショップ」と専門性や参加期間に応じて4種類に分けたプログラムを行っている。

原氏の報告の中心はこのうちの「スペシャルワークショップ」で、えのすいKids Club会員(会員数約5,000名)から17名の参加者を募った「子どもボランティア『クラゲ研究所』」(2011年8月に15日間かけて実施)について、概要と課題が報告された。

「クラゲ研究所」の博士から託されたクラゲたちとのふれあいがプログラムの主な内容であり、クラゲ採集後の洗浄など、生物との接触を通じて飼育仕様の意識を育てるものである。このプログラムの大きな特徴は、飼育体験を通じて子ども達がそれぞれ設定したテーマについて分かったこと、調べたことをまとめることに加え、白衣を着用して水族館来館者に対しプレゼンテーションとして調査内容、子ども達の見解を発表する場が設けられている点である。子ども達が来館者に呼びかけ、体験学習ルームに誘導する場面もある。

発表に際し表現力のテストを子ども達に課すなど、体験学習チームのメンバーのアドバイスは調査内容へのアドバイスにとどまらない。具体的には、お客様にどのようにしたら発表したい内容を伝えられるかについて、選んだ表現は適切かなど、伝える方法は自分で考えられるようなアドバイスを重ねるほか、発表時の声の大きさに問題はないか、家族や仲間だけでなく他の人の前でも話せるか、といったプレゼンテーションスキル面にもコメントが及ぶ。

緊張して話せなくなる子どもや、逆に話し過ぎてしまう子どもが見られる一方で、スペシャルワークショップ参加歴の長い子ども達のなかには、体験学習チームのメンバーからの質問にも動じなくなり、堂々と発表できる子どももいる。そうした子ども達には、参加歴の短い子ども達に対して思いやりを見せるなど参加初期には見られなかった変化もあったという。

スペシャルワークショップのプログラムは、「1つのことを知るために回り道をすることでより深い感動が得られる」点を重視しており、参加者が参加回数を重ねて経験、体験を深められるよう、体験学習チームはファシリテーターとして子ども達と関わっていくとまとめられ、原氏の報告は終了した。

質疑応答では、プログラム担当者は全員が学芸員資格保持者であることや、プログラムの年間目標人数(50,000人)について確認されたほか、ショーの演出については、リニューアル前は飼育担当者が兼任していたが、現在ではショー制作チームが担当し、プロの演出家とコミュニケーションを図りながら、シナリオや音楽を決定していくプロセスについて説明がなされた。ショーの実施については機材管理の担当者を配置するなど、ショーのブラッシュアップのために分業化を前提としたスケジュール管理が欠かせないこと、制作チームは飼育担当者と演出家とのはしわたしをする役割を担っていることが紹介された。

来館者に対する分かりやすさを維持するために実施内容の変化の蓄積や職員間のフィードバックがどのようになされているかに関する質問には、飼育・企画・運営の各チームでアンケートを行い、集計するという試みが行われているとの回答がなされた。

また、リーフレットやポスターなどの紙媒体、館内展示パネルにいたる様々なデザインが統一されている点について専門家の有無を問う質問があり、これに対し、ニューイングランドなど主にアメリカの水族館から学びながらデザインをコンセプトのアウトプットとして捉えている点や週2回デザインミーティングを実施し、そこで承認されたものだけを採用する取り組みが紹介された。

今回の研究会でも、職員間の課題共有のあり方や来館者へのフィードバックのプロセスに特に関心を抱いて参加した。この観点から両氏の報告で最も印象深かったのは、新江ノ島水族館では各活動の根底にコミュニケーションスキルを深める機会が多い点である。

唐亀氏の報告や質疑応答への回答からは、リニューアル前のショーから得られた課題を職員間において共有し、新規の企画に反映させていること、職員間でアンケート調査を実施していることなどである。

原氏の活動報告からは、参加者と館職員の当初の緊張関係が、継続的なコミュニケーションを繰り返すことにより、問題意識を共有する情報の発信者としてともに考えを深めていくプロセスがうかがえた。

エデュケーターについては、来館者とのコミュニケーションのあり方からその意義が語られる機会もあるが、複数の場面での職員間コミュニケーションを蓄積していくことが、各職員の表現力・観察力を高める契機ともなり、多様な背景を持つ来館者に対し、的確な表現で資料の魅力を伝えることに繋がる。

博物館の学習機能は、来館者に対する限定的なものではないはずであり、その観点から職員間コミュニケーションの機会を段階的かつ継続的に設けていく意義は大きいと思われた。今後も継続して、各館の取り組みと成果の検討を個人的にも進めていきたい。

以上

2011年9月8日木曜日

JMMA関東支部・エデュケーター研究会(第7回)開催のお知らせ

JMMA関東支部・エデュケーター研究会(第7回)を下記の通り開催いたします。

今回は新江ノ島水族館で展開されている豊富な教育活動の中のいくつかを見学したあと、担当スタッフからお話しを聞きます。
ふるって御参加ください。

JMMAの会員でない方や関東支部以外の方でも参加可能です。

■日時:2011年10月16日(日)午後2時~7時

■場所: 新江ノ島水族館 (http://www.enosui.com/
      午後2時―入口(湘南お祭り広場)集合(入場証をお渡しします)

午後4時―なぎさの体験館集合(無料ゾーン)

■内容(予定):

(1)午後2時~ 館内自由見学(飼育職員によるショー等の情報を当日ご案内します)
     (2)午後4時~ なぎさの体験学習館でプログラム見学
     (3)午後5時10分~ なぎさの体験学習館スタッフのお話    
     (4)午後5時40分~ 飼育スタッフのお話
     (5)午後6時~ 意見交換会

■参加費: 無料

■申込方法:①~⑤を記入の上、表題「JMMA関東支部研修会参加申し込み」として、下記申し込み先までお申し込み。(メールによる受付のみ)
    ①お名前 ②ご所属 ③ご連絡先(メールアドレス・電話番号)④会員・非会員
    ⑤午後2時からの館内自由見学参加の有無


■申し込み先:Eメール:JMMA関東支部: jmmakanto@gmail.com



JMMA理事(関東支部担当) 染川 香澄、栗原 祐司

2011年3月25日金曜日

JMMA関東支部・エデュケーター研究会(第6回) 議事録

JMMA関東支部・エデュケーター研究会(第6回) 議事録
2011年3月5日(土)10時30分~@水戸芸術館現代美術ギャラリー

第6回の研究会は、茨城県水戸市の水戸芸術館現代美術ギャラリーで行われました。参加者は遠方なので少ないかと思いましたが、28人もの参加がありました。実は、水戸はJMMA副会長の水嶋英治先生(常磐大学教授)のお膝元ということもあって、常磐大学の学生が多数参加してくれたのです。

水戸芸術館では、ちょうど「高校生ウィーク」を開催中で、その時期にあわせて研究会を開催したのです。約1ヶ月間の「高校生ウィーク」の期間中は、高校生及び15~18歳の来場者は開催中の展覧会を無料で何度でも鑑賞することができ、来場者は誰でも利用できるカフェが開設され、その運営も高校生、大学生のボランティアが中心になって運営されています。同館では18年前から「高校生ウィーク」に取り組んでおり、今ではすっかり地元で定着したようです。



 研究会は、まずカフェ「喫茶とびら」で、同センター教育プログラムコーディネーターの森山純子さんに同センターの活動内容を紹介していただきました。ふだんは展示室やワークショップにも使われるスペースに設けられたカフェには、ゆったりとしたソファやテーブルが据えられ、水戸芸術館のカタログなどアート関連の書籍が並んでいます。セルフサービスのカウンターにはコーヒーやお茶が用意してあり、無料で飲むことができます。そのほか、ここではいろいろな作品が展示してあり、一つはカラフルな布や糸などを自由に使って作品を制作できるコーナー「日々の針仕事」、もう一つは、文谷有佳里さんによる公開制作&ワークショップの「ドローイング-私の居場所、描く場所」コーナーで、電話しながらいたずら書きしたようなドローイングの公開制作が行われ、来場者は自由にドローイングを楽しむことができます。また、「ブカツ」と呼ばれている学芸員やアーティストとの長期ワークショップがあり、一つは高校生による高校生のためのギャラリーガイドを作成する「書く。部」、もう一つは撮った写真を本人のコメントともにポストカードブックに仕立てたり、カフェ会場で上映するスライドショーを制作する「写真部」です。昨年はこのほか「放送部!」や「サステナ部」がありました。

 また、今年は展示室で「クワイエット・アテンションズ 彼女からの出発」展を開催しており、女性アーティストによる多様な作品世界を紹介していましたが、これに連動したワークショップも開催されます。ワークショップはそれぞれ講師を招いて行われ、展示作品を題材に短編小説を書く「文芸の時間」、自分や周りにいる人たちがごきげんに過ごすためにできることを考える「保健体育の時間」、水戸芸術館にくつろぎ空間を作るための増築を行う「技術の時間」、食で人と人をつなぎ、場をつくりだす方法を実践する「料理の時間」の四つが行われるそうです。これらの活動に参加することによって、一過性の利用ではない美術館とのつながりや、来館者どうしのつながりができてくるのでしょう。



 さて、研究会では、やはり森山さんの御配慮で、すぐ近くに住んでいる白鳥建二さんに御登場いただきました。白鳥建二さんは全盲のマッサージ師で、作品鑑賞を「言葉を介したコミュニケーション」としてとらえるミュージアムアクセスグループ MAR の活動などを通じ、視覚に障害がある人とない人が一緒に美術作品をみる鑑賞方法を各地の美術館で提案しています。水戸芸術館で年に数回開催される視覚に障害がある人とのツアー「session!」のナヴィゲーターを務めていますが、今回は特別に一時間程度お話をうかがった後で、実際に白鳥さんと一緒に「クワイエット・アテンションズ」展の作品を見学し、作品に触ることなく、言葉で表現することによって鑑賞するという経験をさせていただきました。白鳥さんのお話の中で印象深かった言葉は、「作品の側から手が伸びてきた感じ」(現代アートに出会って「これだ」と思った感覚)、一緒に歩いてくれる方のノリに助けられて楽しくなっていくこと、「見えている人は、見たらわかる」と思っていたが、「見ても迷うことがあるんだ」と知ったこと(「見ている人が迷ったら、ぼくも想像していいんだ」)、教えてもらっているという感覚ではなく、「自分が見ている」という気持になっていく、作品にはエネルギーがある、その人とその作品とのあいだでしか起こらないことを大事にする、「鑑賞する」を自分のものにする…などなど。

「ことば」を主たるメディアとして追求する白鳥さんの様々なエピソードやその時の考えなどを聞いていて、自分もそんな風な楽しみ方をしてみたいと思ったのは、私だけではないでしょう。

付記:2011年3月11日に発生した東北・太平洋沖地震によって、水戸芸術館はパイプオルガンのパイプの落下、美術展示スペースの天井崩落、窓ガラスが割れるなどの被害があったそうです。幸い人的被害はなかったとのことですが、現在休館中です。心からお見舞い申し上げるとともに、早期の復旧を期待したいと思います。

(文責:JMMA理事 栗原祐司)

2010年12月29日水曜日

JMMA関東支部・エデュケーター研究会(第4回) 議事録

2010年11月1日@国立新美術館

JMMA関東支部・エデュケーター研究会(第4回)
議事録

第4回の研究会は、京都造形芸術大学(以下、京都造芸大)教授の福のり子さんを迎えて行われた。福さんと言えば、対話型美術鑑賞で知られるアメリア・アレナスを日本に紹介し、「なぜこれがアートなの?」を翻訳出版されたことでよく知られているが、今回の研究会では、福さんが教鞭をとられる大学で実践されているプロジェクト、Art Communication Project(ACOP)(http://acop.jp/)の話を中心に、コミュニケーションによる鑑賞教育について講演された。

まずは福さんから、「美術館は必要であり、素晴らしいもの」という美術館性善説への疑問が投げかけられた。全国に存在する美術館博物館関連施設は5614館もあるにもかかわらず、京都造芸大の学生による街頭アンケートによると(年間を通して授業で実施、毎年報告書『わたしたちがみた当世美術館事情』が出版される。サイトより購入可)、約500名のアンケート回答者のうち、1度も美術館に行ったことない人が多数を占めたという。また、別のアンケートで美術館の存在意義について美術館にたずねたところ、館側から「収集・保管、展示、調査研究」という回答があったという。はたして、美術館の目的はこれだけなのか、これだけで美術館は必要なものであり素晴らしいものと言えるのだろうか。本来、美術=アートというのは、美術作品というモノとそれをみる人との間に介在するものではないか。こうした疑問は実際に海外の美術館でも波及しており、海外では、美術作品そのものに焦点をあてる活動から、作品と人との関連性を重視するような活動が増えてきているという。

アートが「作品と人との間にあるもの」であるならば、美術作品と来館者との間に発生するコミュニケーションの可能性を提供できるのが美術館という場である。そしてその美術館で作品と出会うことが、来館者自身の学びとなり知識や能力となっていく。知識とは、学ぶ側が感知した時に初めて感得するものである。そしてエデュケーターとは、美術館来館者をサポートし、来館者が持つ知識や経験から学びを引き出す場づくりを支援する役割を持つ、と福さんは語った。

美術館におけるこうした学びには、コミュニケーションを閉ざさないことが大事だという。そのコミュニケーションを閉ざさないための項目として下記の3つが挙げられた。

1)ひとつの正解、あるいは到達点を想定しない
2)様々な解釈、誤解や妄想が許されている
3)「訂正の道」が約束されている

事実はひとつだが、みた人の解釈や考え=真理はみる人の数だけ存在する。作品に描かれたモノだけではなく、作品から想像される様々なコトをさらに想像し、読み取り、考えていく行為がアートであり、その何かから新たな意味を作り出すのが鑑賞者である。そして歴史を鑑みても、死後評価されるアーティスト(ゴッホなど)は多数存在し、鑑賞者が変われば作品の評価も変わるように、鑑賞者は主体的に作品と関わることができ、また作品はみる人によってはじめて生命が与えられる。美術鑑賞とは、作品と鑑賞者との間におこるキャッチボールであり、知識だけではなく、意識を持って「みる」ことで鑑賞も変わっていくのである。なお、「みる」という行為には以下の3つがあるという。

*実際にはみえないものをみること
*みたいことだけをみること
*みたくないものに目をつぶること

みるとは、とても複雑な行為なのだ。作品はみる人によって初めて生命が与えられるものであり、ときには過去の情報や知識が時には学びの邪魔をすることがある。知識だけではなく、意識を持って「みる」ことによってその人自身の学びとなり、知識や経験となっていく、と福さんは説明された。

 次に、京都造芸大で行われているプロジェクト、「Art Communication Project(ACOP)」
の説明があった。ACOPは、鑑賞という体験を人とのコミュニケーションを通じ、アートと自身の可能性を広げる行為を培うプログラムで、コミュニケーションを用いた鑑賞であり、鑑賞の中からコミュニケーションを養うという。

このACOPでは、作品を読み解くために5つのキーワードを掲げている。
 *意識をもってみること
 *直感を大切にすること
 *考えること
 *話すこと
 *聞くこと

ACOPでは、鑑賞の際に複数の鑑賞者をグループ化し、20分から30分ほど対話をしながら鑑賞してもらうという。最初に作品をみてもらい、その後鑑賞者に作品の第一印象などとその理由(例えそれが「つまらない」といった感想でも)を語ってもらう。ナビゲーターである学生は仲介者となって、上記の作品を読み解くキーワードを意識しながら鑑賞者それぞれの意見を引き出し、作品の理解を深める手助けをする。

感動は言語化することで感動を持続することができるそうだが、こうして自己の考えを言語化し、対話を通し他者と共有することで、考えが発展しお互いに学びを始めるという。
作品と鑑賞者の間に立ちあがるコミュニケーションこそが“作品の体験”であり、ACOPの目的とする鑑賞、と福さんは説明された。

実際、ACOPを受講した学生にも変化が表れたという。受講当初、「自分が作品について教える」あるいは「話してあげる」という意識を持ち、一方通行の「話し」しかできなかった学生は、やがて鑑賞者の意見を深く理解し、対話の中から鑑賞者の意見を引き出すコミュニケーションに変わっていったそうだ。そして、作品や他者と自己との関係を通し、自分自身の発見にもつながっていったという。

福さんにとってのエデュケーターとは、こうしたACOPで実践されている、「作品にあるたくさんの『?』、鑑賞者が感じる『?』をつなぐ=コミュニケートする、ことでたくさんの『!』になっていく、その『!』を増やすお手伝い」をする人、という。そして、エデュケーターに必要なのは、コミュニケーション能力、と締めくくられた。

 その後の質疑応答の中では、ACOPがアート以外の分野で応用されているかといった話題がのぼったが、実際には、患者とのコミュニケーション力を必要とする看護の世界や、京都大学総合博物館との提携で歴史系自然系博物館でも応用されている実例が挙げられた。
また、アートにおける「制作」と「鑑賞」と関係性については、「制作者にとって、自分の作品の一番の鑑賞者は自分。いい制作者になるためにはいい鑑賞者にならないと!」と福さんは笑顔で応えられた。

 今回の福さんの講演は、「エデュケーターとはどういう役割か」が具体的に示された内容であった。1990年代に対話型鑑賞教育プログラムが日本に紹介されてより約20年が経過しようとする現在、そのプログラムの人材育成として展開されているACOPが今後エデュケーターの育成にどのように関わっていくのか、注目していきたいと思う。



(文責・美術出版社「美術検定」実行委員会事務局 高橋紀子)

2010年12月22日水曜日

第5回 エデュケーター研究会 報告

第5回 エデュケーター研究会の報告



JMMA関東支部では、エデュケーター研究会第5回を開催いたしました。

第5回は、博物館での学びについて長年研究を続けておられ、このたび翻訳出版された『博物館で学ぶ』(同成社)の翻訳メンバーでもある千葉市動物公園の並木美砂子さんによるオリジナルワークショップ、1時間の講演のあと、フリーディスカッションを行いました。



■日時:2010年12月4日(土)15時30分~(2時間程度)

■場所:千葉市動物公園 動物科学館(会議室)

■内容:(1)開会   染川香澄 JMMA関東支部担当理事
(2)講演  「子どもたちの『声』に耳をすまして」
並木美砂子氏(千葉市動物公園)

以下、並木さんより、当日のご感想を頂戴いたしましたので、掲載させていただきます。




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日頃、「動物観察」に類する来園者向けのプログラムでは、観察ツールとしてシートを用意するのですが、今回の「大人むけマウス観察」では、初めて「自由書き込み型」を用いてみました。

いつもは、足りないと事を書き足していくスケッチ型(形態観察)・エソグラムチェック型(行動カテゴリーを図で表したもの)を用いるのですが、あえて、そういう「わくぐみ」を取り払ってみて、むしろ、「いっしょに観察してみると起きること」を体験するという目的のWSでした。だから、個体情報も動物としての特徴も何もないところから始めてみたのです・・・

まったく手がかりのない動物に対峙したとき、その動物をどのように見て知ろうとするのか・・そのプロセスって?を追究することに参加者の方の手を借りた・・・というふうにも言えるかもしれません。その意味で、不親切な「自由書き込み」型の観察シートだったのでした・・・

小さな動物を対象としたのは、大きかったり離れていると30分間の追跡は困難だからです。「よく見る」ためには小さい動物(見る側が絶対的に有利・見ることに集中できる)がよいと判断したからです。



ご参加いただいた方のシートを回収させていただき、ざっと見せていただいて私が感じたこと、(詳細はぜひJMMAなどで紹介したいですが)少し述べさせていただくと・・

1)仮説をもちこみながら見ている

2)行動観察を、流れとして文章で書いている

というのは共通していました。

わたしたち動物園に長くいると、「観察」というとその観察に用いる独特のことば(ジャンルのような)にひきずられることがよくあります。たとえば、「ロコモーションはスムーズ」とか、「マーキング行動の次に必ず確認行動あり」とか、「ホッピングはまったくしない」とか・・・ そういう「行動用語」を使うことでひとつひとつをクリアにしながら動物を見ることになれすぎているのかなあとも思いました。たとえば、「木の細長い箱を横にしたらじっとして小さくなっていたのに、縦に置いたらいっしょうけんめい両足を踏ん張りながら使って登っていって、とうとう上まで登った」というように、お話しのように書いて下さっている方が多かったです。なるほどー って思いました。動物を見るっていうことやその見たことの表現って無限ですね- おもしろいです。



長くなりました・・

研究会の方は、理論紹介をもっとしてもよかったかなあと反省もありましたが、どこかできちんと「教育と学習」のはなしをする機会があることを祈りたいと思います。でも、いろんな場面で申し上げている「about it」と「throuh it」や、ポリフォニー(多声性)のことをご紹介できたのはよかったと思いました。

あらためて、このような機会をつくっていただいたことに感謝申し上げます。

2010年12月10日金曜日

JMMA関東支部・エデュケーター研究会(第6回)開催のお知らせ

JMMA関東支部・エデュケーター研究会(第6回)開催のお知らせ


JMMA理事(関東支部担当) 染川 香澄
     同         栗原 祐司

 JMMA関東支部・エデュケーター研究会(第6回)を下記の通り開催いたしますのでふるって御参加ください。JMMAの会員でない方や関東支部以外の方でも参加可能です。
(午前中のみ、または午後からの参加でも結構です。)

■日時:2010年3月5日(土)10時30分~

■場所:水戸芸術館現代美術ギャラリー
「高校生ウィーク」特設カフェ(茨城県水戸市)

■内容:(1)開会   染川 香澄  ハンズ・オン プランニング代表
    (2)講演   森山 純子  水戸芸術館現代美術センター
教育プログラムコーディネーター
「美術館の中のカフェ-教育プログラムを中心に-」
    (3)意見交換
     ~ 昼食 ~(周辺の食事場所を御紹介します)
    (4)「高校生ウィーク2010」見学
       http://www.arttowermito.or.jp/art/modules/tinyd3/index.php?id=6
    (5)白鳥建二さんとの意見交換会
    (6)「クワイエット・アテンションズ」展 自由鑑賞

■参加費:水戸芸術館現代美術ギャラリーの入館料(団体料金)600円を負担願います。

■申込方法:①~⑤を記入の上、表題「JMMA関東支部研修会参加申し込み」として、下記申し込み先までお申し込み。(メールによる受付のみ)
    ①お名前 ②ご所属 ③ご連絡先(メールアドレス・電話番号)④会員・非会員
    ⑤午前中のみ、または午後からの参加の場合は、その旨御記入ください。

なお、「クワイエット・アテンションズ」展の鑑賞は、白鳥さんとのことばによる鑑賞や、ボランティアのツアーを利用することも可能とのことですので、御希望される場合は、その旨御記入の上、2月21日(月)までに御連絡ください。

■申し込み先:Eメール:JMMA関東支部: jmmakanto@gmail.com
(当日参加も可能)


(参考)白鳥 建二
作品鑑賞を「言葉を介したコミュニケーション」としてとらえるミュージアムアクセスグループ MAR の活動を通じ、視覚に障害がある人とない人が一緒に美術作品をみる鑑賞方法を各地の美術館で提案している。2008年より水戸在住。水戸芸術館で年に数回開催される、視覚に障害がある人とのツアー「session!」のナヴィゲーターをつとめる。